マイホスピタル

合併症にチーム医療体制で臨む
「糖尿病足病変」に取り組むフットケア外来

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厚生労働省によれば「糖尿病が強く疑われる」成人の推計数は1000万人の大台。ほかに糖尿病予備軍(境界型)も1000万人とされ、国民病のレベルです。ごくありふれた病気ですが、糖尿病が厄介なのは自覚症状が乏しいので気づかずに放置状態が続いてしまうと重篤な合併症が進行し、失明や下肢の切断、血液透析、突然死などにつながることです。
その予防と治療についてイムス三芳総合病院の内分泌・代謝センター長の貴田岡正史医師にうかがいました。

血管の劣化が招く糖尿病の合併症

糖尿病はきちんと治療をしないと、いろいろな合併症が起こると聞いています。具体的には、どんな病気を引き起こすのでしょうか?

 まず糖尿病の合併症は"血液の病気"だと理解してください。細い血管が傷ついて発症する細小血管症には「糖尿病神経障害」「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」などがあります。それより太い動脈に起こる大血管症には「心筋梗塞」「脳梗塞」「末梢動脈疾患」などが挙げられるでしょう。末梢動脈疾患とは足の動脈硬化から血流障害が起こり、足にはさまざまなトラブルが発現する「糖尿病足病変」「糖尿病足潰瘍」などが含まれます。
大血管症は高血圧や脂質異常症、内臓脂肪型肥満なども原因になりますが、糖尿病にこれらの原因が重なると発症リスクは3〜5倍に高まります。

糖尿病になると、なぜ血管が弱ってしますのですか?

 糖尿病は血液中に糖(ブドウ糖)が増えてしまう病気です。健康であれば、食事で摂った糖は、膵臓から分泌されるホルモン「インスリン」の働き方で全身の細胞に取り込まれ、エネルギー源として活用されます。ところが糖尿病になると、インスリンそのものの不足や、インスリンが効果を発揮しにくい「インスリン抵抗性」が起こるため、血液中に過剰な糖がとどまる「高血糖」が続いてしまします。
糖尿病の診断基準は、空腹時血糖126ml/dl以上、食後2時間血糖200mg/dl以上、ヘモグロビンA1c(ヘモグロビンが糖と結合している場合)6.5%以上の組み合わせです。

"糖"が血管を傷つける?

 はい。高血糖そのものは重症の場合を除いて自覚症状がありませんが、5年・10年と持続すると血管の細胞が障害を受けて悪化していきます。血管が脆く詰まりやすくなり、血液の循環も停滞しますから、合併症の温床となるわけです。免疫細胞もダメージを受ける為感染症にも罹りやすい。がん、認知症のリスクが高くなり、骨粗しょう症、歯周病などにも関係しています。

満身創痍!糖尿病の合併症は、生活の質を大きく低下させてしまうのですね。

 当院では内分泌・代謝センターをキーステージョンに、眼科・皮膚科・形成外科・整形外科などが参加するチーム医療体制を構築してきました。糖尿病の早期から積極的に介入し、全方位で合併症の予防・改善・治療に努めています。
一方、国や都道府県は「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を展開中です。腎臓機能が低下し血液透析を必要とする糖尿病患者が急激に増えているため、患者さま一人ひとりの病態に即したフォローが、喫緊の課題なのです。当院は以前から地域の医療機関と連携し、合併症で高度な医療を必要とする力を受け入れてきましたので、その責務はますます重くなるでしょう。

注目される「足病変」の予防とケア

「フットケア外来」に尽力するのも、その一環ですね。

 糖尿病足病変が重症化し、下股切断を余儀なくされる方は年間1万人を下らないとされています。糖尿病と診断した方にはあしの動脈硬化を評価する脈波伝播速度や血流状態を判定するABI(足関節/上腕血圧比)やSPP(皮膚灌流圧)などの検査を施行しています。必要に応じフットケア外来の予約を取り、皮膚科医や形成外科医の診察を受けてもらいます。
初期症状は足の皮膚がカサカサに乾燥する、赤黒く変色する、傷や湿疹、水虫などが治りにくい、爪が肥厚する、足指や足の裏に胼胝ができているなどが挙げられます。
重症化するとると潰瘍ができて細胞感染が進み、時には足先や膝下の細胞が壊死してしまいます。血流障害が主因の時はなるべく早く血管外科と連携し、カテーテルなどによる血管再建術につなげなければなりません。受診が遅れ骨まで侵されるとやむをえず整形外科で足を切断することになります。

特に糖尿病足変病になりやすい人はいるのですか?

 アセスメントに利用している「AAAスコア」には、①糖尿病罹病期間が年以上 ②両眼矯正視力が0・5以下 ③eGFRの低下 ④独身 ⑤肉体労働者が挙げられています。
 ②は糖尿病網膜症による視力低下を想定し、糖尿病のコントロール状態不良を示唆しています。足に異常が起こっても、目視・確認が十分にできません。③は腎臓機能の数値です。糖尿病腎症のために濾過能力が低下し、血中の老廃物が増えれば動脈硬化が加速します。④は生活が不規則で食事療法に失敗しやすい人。飲酒や喫煙習慣の割合も高いでしょう。⑤は安全靴などの長時間着用で足が蒸れ、雑菌が繁殖しやすいことなどを加味しています。

   
フットケア外来

糖尿病神経症が疑われる患者さまの足に「音叉」を当て、振動を感知できるかどうかチェック。
指で脈を確認する、簡易血流計で血流量を計測するなども行う

 

なるほど、よくわかります。

 重い糖尿病神経障害を発症している方もハイリスクです。これは手足の末梢神経の感覚麻痺や、自律神経の失調を主症状とする合併症。足に怪我や火傷をしても痛みや熱さを感じにくいため、気づかずに傷を悪化させる方が少なくありません。また筋肉の萎縮を伴う場合は、足指や土踏まずが変形し、足に大きな負担をかけます。靴ズレや胼胝も足病変を引き起こす要因です。

フットケア外来では、症状のチェックと予防・改善、治療を行うわけですね。

 糖尿病看護とフットケアの担当看護師が常駐し、患者さまの足のコンディションを定期的に確認します。ご自身でできるケアの方法もアドバイスし、悪化を防ぎます。清潔を保ち、皮膚の保湿と爪や胼胝の手入れを心がけることで、見違えるほど症状が改善するんですよ。
足に限らず療養全般の悩みにもじっくり耳を傾け、必要なら各診療科の医師や薬剤師、管理栄養士、理学療法士などとも連携。糖尿病のチーム医療を手厚くバックアップするのも役目です。足に合った医療用シューズも案内します。いわば"”コンンシェルジュ”といったところでしょうか。

外部への情報発信もしておられるとか?

 蓄積した経験を生かしいがケアを模擬体験する方式なので、わかりやすいと大好評。地域全体で「足を守る」という意識を高めることも当院の目標の一つです。足を失った方の生命予後は、がん罹患者より低いといわれています。

深爪で指先に小さな傷ができると、細菌感染や潰瘍を誘発する恐れがある。
必要に応じて爪切りや胼胝の手入れについて指導を受けることも可能

フットケア外来

生活習慣の改善も糖尿病治療の要

糖尿病合併症の予防や治療と、糖尿病の治療の関係について教えてください。

 現在の医学では、初期の場合を除いて一旦低下した膵臓のインスリン分泌機能を健常レベルに回復させることは困難です。薬物療法、食事療法、運動療法の3本柱で、血糖値が上がったり乱高下したりしないよう、血糖コントロールを良好に保つことが糖尿病治療の基本です。その一番の目的が合併症の発症と重症化を防ぐこと。これに個々の合併症に応じた必要な治療がプラスされます。
 糖尿病治療の薬剤にはさまざまなタイプがあり、新たな薬も開発されてきているのですが、食事や運動を中心とした生活習慣を改善しないとなかなか効果があがりません。患者さまご自身の自覚と、治療への意欲が必要です。

その支援のために「糖尿病教育入院」や「糖尿病教室」を実施しているのですね。

 いずれも原則として当院の患者さまと、近隣医療機関からの紹介患者さまが対象です。
 入院は健常コースと2泊3日の短期コースがあり、患者さまのスケジュールに合わせて予約可能。動脈硬化や主な合併症の調査を行う一方、糖尿病医療チームによる講座は病気の基礎知識、栄養、服薬、血糖自己測定、運動指導など充実の内容。仕事で多忙な方でも無理なく受けられるよう工夫しています。
 教室はプログラム①として合併症の知識、運動療法、食事(基本編)。プログラム②は血糖自己測定、服薬、フットケア、食事(応用編)。月に2回、火曜と土曜の開催ですが、奇数月と偶数月でプログラムが入れ替わるので、都合に合わせて受講しやすくなっています。

糖尿病の会も盛んだとうかがいました。

 糖尿病は一生付き合っていかなければならない病気です。支え合い、励まし合える仲間は欠かせません。名称は「けやき会」といい、会員になると当院医療スタッフのサポートの下、勉強会や情報交換、各種のイベントに参加することができます。特に好評なのは糖尿病食の「バイキング」。主菜からデザートまでずらりと並び、食べたいものを選ぶと、管理栄養士がカロリーや栄養について具体的にアドバイスしてくれる。作り方も配布されますから、毎日の献立の幅がぐんと広がりますよ。
ノルディックウォーキングなど長く続けやすい運動も実践指導します。

きめ細かな支援で、前向きに治療に向かえるのですね。本日はありがとうございました。

貴田岡正史

イムス三芳総合病院
内分泌(甲状腺)・代謝(糖尿病)センター センター長
貴田岡正史 医師

日本糖尿病学会専門医・指導医
日本内分泌学会内分泌代謝科(内科)専門医・指導医
日本超音波医学会専門医・指導医
日本甲状腺学会専門医

糖尿病食のバイキング

糖尿病 糖尿病

病院の栄養科が腕を振るったメニューはまるでホテルバイキングのよう。
工夫次第で様々な食材を賢く美味しく食べることができる

ノルディックウォーク

糖尿病

スキーのように2本のポールを使うウォーキングを理学療法士が指導。
新緑の中、リズミカルな全身運動で心地よい汗を

 

糖尿病教室

糖尿病

院内の会議室で、糖尿病の専門医から糖尿病のメカニズムと合併症についての解説を聞く。
スライドが多用され、わかりやすいと好評だ

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